キャリア・カウンセリング、ガイダンス そしてコンサルティングへ

第10回 キャリア・カウンセリングの実際(その3)

―― 包括的・折衷的カウンセリング――

カウンセリングには感情的、認知的、行動的、発達的アプローチがあることはすでに述べた(本連載第3回参照)。キャリア・カウンセリングもカウンセリングである以上、カウンセリング一般に必要な手法・スキルを持っていなければならないことは当然である。そのうえで、キャリア・カウンセリングは、感情的、認知的、行動的、発達的アプローチのすべてを取り入れた「包括的・折衷的アプローチ」をとる。

今回は、今日わが国で広く使われているいくつかの「包括的・折衷的カウンセリング・モデル」のいくつかを紹介しよう。これらのカウンセリングは、キャリア・カウンセリングそのものか、直接関連するアプローチであると私は考える。

I マイクロカウンセリング(microcounseling)

1 マイクロカウンセリングとは

1990年代にアイビイ(Ivey, A. E)とその共同研究者によって開発されたカウンセリング手法である。カウンセリング・プロセスにおいて使用されるいくつかの手法を統合してカウンセリングの「メタモデル」として定着した。

アイビイは、いろいろなカウンセリングに関わるうちに、多くのカウンセリングに一貫してみられる共通のパターンがあることに気づき、それを「技法」と命名し、「マイクロ技法の階層表」にまとめた。

2 マイクロ技法の階層表

(1)かかわり行動

クライエントの話を「聴く」こと。この技法はカウンセリングの基本であり、クライエントとのコミュニケーションの成立に必須なもので、クライエントを励ますことになる。
 具体的技法は、視線の合わせ方、体位のとり方、声の調子、非言語的はげましなどである。

(2)かかわり技法

言語レベルの傾聴法である。クライエントの枠組みに沿ったものでなければならない。
 具体的技法としては開かれた質問、閉ざされた質問、はげまし、いいかえ、要約、感情の反映、意味の反映などである。

(3)積極技法

能動的にかかわりながら、相手の問題解決を促す技法である。
 指示、論理的帰結、解釈、自己開示、情報提供、説明、教示、フィードバック、カウンセラーの発言の要約、焦点のあてかた、対決(矛盾、不一致)などである。

(4)技法の統合

いろいろな技法を組み合わせて適切に用い、コミュニケーションをスムーズにしながら問題を解決するほうへ持って行く。
 具体的技法としては、ラポール、問題の評価、目標の設定、目標に対する方策の設定、方策の実行を順次すすめる。

「マイクロ技法の階層表」は次の通りである。

マイクロ技法の階層表

II ヘルピング(helping)

1 ヘルピングとは

1960年代以降カーカフ(Carkhuff,R.R)によって提唱されたカウンセリング・モデルである。3つの特徴があると言われる。

① 精神分析療法や来談者中心カウンセリングなどの洞察志向のカウンセリングと、行動療法などの行動変容志向のカウンセリングを、統合した折衷、統合的アプローチをとる。

② 援助全体を4段階に分け、技法を具体的、段階的に展開する。

③ カウンセリングを専門的カウンセラーだけのものにせず、広く一般人も使えるように方式化した。

2 ヘルピングの段階化

一般に次の4段階で進める。

(1)事前段階(かかわり技法)

いわゆるラポールの形成。ヘルピーが自分の個人的経験をヘルパーと分かち合うこころの準備段階の「かかわり技法(attending)」という。
 具体的技法はかかわりへの準備、親身なかかわり、観察、傾聴。

(2)第1段階(応答技法)

ヘルピーがどんな状態にあるか現在地を明らかにする。
 ヘルパーとヘルピーの言葉による応答。応答技法(responding)という。
 具体的技法は、事柄への応答、感謝への応答、意味への応答。

(3)第2段階(意識化技法)

ヘルピーがどんな状態になりたいのか、ヘルピーの目的地を明らかにする。
 意識化技法(personalization)とよばれる。具体的技法は意味、問題、目標、感情の意識化。

(4)第3段階(手ほどき技法)

目標を達成するために計画を立て、それを実行する段階。目標に向かって具体的にスケジュールを立て行動する段階。手ほどき技法(innitiating)と呼ばれる。
 具体的技法としては、目標の明確化、行動計画の作成、スケジュールと強化法、行動化の準備、手ほどき。

(5)援助過程の繰り返し

ヘルピーの反応や行動結果を見ながら、援助を繰り返す。それによりヘルピーは、より深い自己理解、自己探索、より効果的な行動をとれるようになる。

III コーヒーカップ・モデル

1 コーヒーカップ・モデルとは

サイコセラピーからカウンセリングを識別する立場から、国分康孝によって提唱されたカウンセリング・モデルである。このモデルでは、カウンセリングとは「言語的、非言語的コミュニケーションを通して、行動変容を試みる人間関係」と定義している。

すなわち、カウンセリングの目的は、人生誰でも遭遇する問題(例えば、人間関係、進路、家族関係、就職、老後の生活など)を乗り越えながら成長するのを援助することである。

コーヒーカップ・モデルでは、カウンセリングは次のプロセスによって行う。

① リレーションをつくる(面接の初期)
 まず、言語的スキルによってリレーションをつくる。
 具体的技法としては、受容、繰り返し、言い換え、明確化、支持、質問(閉ざされた質問、開かれた質問)などである。

② 問題をつかむ(面接の中期)
 非言語的スキルをつかって問題をつかむ。
 具体的技法としては、視線、表情、ジェスチャー、声の質・量、席のとり方、言葉づかい、服装・身だしなみなどである。

③ 問題解決の段階(面接の後期)
 処置、問題を解決する段階である。
 具体的技法としては、リファー、ケースワーク、スーパービジョン、コンサルテーション、具申、カウンセリング(狭義)、その他などである。

国分は、このカウンセリング・プロセスが、コーヒーカップの断面図に似ているというので「コーヒーカップ・モデル」と命名した。広い意味で包括的・折衷的アプローチである。

《引用・参考文献》

1 木村 周「キャリア・コンサルティング 理論と実際(3訂版)」 2013 一般社団法人雇用問題研究会

2 アレン・E・アイビイ著 福原真知子他訳編「マイクロカウンセリング “学ぶー使うー教える”技法の統合:その理論と実際」 1995 有限会社川島書店

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