職業紹介をめぐる法的な問題等について

第16回 マイナンバー法施行に伴う職業紹介業者の留意すべき点について

本年10月5日から、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(マイナンバー法)が施行されるが、これに伴い、職業紹介業者が留意することが適切と考えられる点について解説することとしたい。

1 マイナンバー法について

マイナンバー法は、「公平・公正な社会の実現」、「国民の利便性の向上」及び「行政の効率化」を図るための社会基盤としてのマイナンバー制度を導入することを目的に、平成25年5月制定され、本年10月5日から施行されるものである。なお、マイナンバー法は、個人情報保護法の特別法として制定されたものなので、マイナンバー法に定めがない部分は、個人情報保護法の規定が適用される。

(1)概 要

マイナンバー法の施行に伴い、住民票を有するすべての個人に、10月5日時点で住民票に記載されている住所に、1人1番号の「個人番号(12ケタ)」(マイナンバー)が住所地の市区町村長により指定・通知され、また法人には、登記上の所在地に、1法人1番号の「法人番号(13ケタ)」が、10月22日以降11月25日までに、国税庁長官から指定・通知され、主として社会保障・税に係る分野において、その活用が、平成28年1月(厚生年金・健康保険は平成29年1月)から始まることとなっている(参考参照。最新の情報については、随時公表される内閣官房のホームページ[マイナンバー]参照のこと)。
 なお、マイナンバー法は、前国会で改正され、年金分野への適用が延期(基礎年金番号との連結については最長1年5か月延期(平成29年11月30日))されるとともに、今後、預貯金口座、医療等分野等へその利用範囲が拡充されることとなっている。

(2)法人番号について

法人である職業紹介業者の方々は、平成28年1月以降、社会保障・税に係る分野の書類に設けられる法人番号(個人事業者である場合は、個人番号(マイナンバー)。以下同じ)記入欄に、各自の法人番号を記入し、関係の行政機関(税務署、ハローワーク等)に提出しなければならない。この際、必要に応じ、従業員のマイナンバーも記入することが必要となる。
 なお、この点に関し、税の分野については、平成28年1月以降に始まる事業年度から対象となるため、実際に申告書に法人番号を記載する作業は、平成29年からとなる。
 また、この法人番号は、マイナンバーと違い、公開され誰でも自由に使用できることとされている(国税庁の「法人番号公表サイト」で検索可能)。
 なお、求人手数料のように求人者等から料金・報酬等を得るに際しては、求人者等から、その法人番号を取得する必要性はない。

(3)個人番号(マイナンバー)について

(イ) 職業紹介業者の方々についてマイナンバーが問題となるのは、主としてその雇用する従業員(役員を含む)に関してである。
 このマイナンバーに関して、まず、職業紹介業者の方々がやるべきことは、マイナンバーを安全に管理するための体制を整えることである。このため、特定個人情報保護委員会が策定した「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」(注)に従って、安全管理を行うことが必要であるので、その内容を理解した上での対応が求められる。この内容は、概略「法律で定められた分野・目的外での利用禁止」、「法律で定められた分野・目的外での提供を求めることの禁止」、「提供を受ける際の本人確認」及び「マイナンバーの安全管理」ということである。
 また、マイナンバー及びマイナンバーと個人情報を組み合わせたものは、「特定個人情報」として、従来の個人情報よりも厳しい制約が課されており、例えば、「特定個人情報」は、「本人の同意があっても、法律で定められた範囲以外の第三者への提供」は禁止されるので、注意を要する。
 そのうえで、従業員については、平成28年1月以降、雇用保険、厚生年金・健康保険に係る手続きや源泉徴収手続きに関し、関係書類に、従業員のマイナンバーの記載が必要となるので、あらかじめ、従業員からその扶養親族を含め、それらのマイナンバーを取得しておく必要がある。この際注意を要するのは、その者が本人であることを確認することが義務付けられており(扶養親族については、国民年金の3号被保険者(従業員の配偶者)に係る手続きを除き、本人確認不要)、この確認は、個人番号カード、運転免許証、パスポート等一定の書類で確認する必要があり、かつマイナンバーの提供を受ける都度ごとに行う必要があるということである。なお、職業紹介業者には関係書類に従業員等のマイナンバーを記載する義務があるが、従業員等にはそのマイナンバーを職業紹介業者に提供する義務はなくその提供を強制できないので、従業員にマイナンバーに関し充分な説明を行い、確実にその提供を得られるようにしなければならない。
 また、従業員の退職等で不要となった「特定個人情報」は、法定の保管期間後は、できるだけ速やかに廃棄しなければならないので、漫然とこれらの情報を保管することのないよう注意を払わなければならない。

(ロ) なお、マイナンバーを付与された「個人番号カード」は、主として社会保障・税に係る手続きに利用されることになっているが、本人確認のための身分証明書としての使用も想定されており、職業紹介業者が、求職者本人かどうかを確認する際の利用も考えられるところである。ただ、職業紹介業者としては、この「個人番号カード」の利用に当たっては、上述したように、カード裏面に記載されているマイナンバー(12ケタ)を書き写したり、コピーを取ったりすることは禁止されている点に、留意する必要がある。
 また、家政婦・夫さんの紹介に関しては、その賃金を支払う個人家庭が常時2人以下の家政婦・夫さんしか雇用していない場合は、当該個人家庭には源泉徴収義務がないことから、当該個人家庭では、家政婦・夫さんのマイナンバーを取得する必要性はないので、この旨求人者に説明し家政婦・夫さんのマイナンバーを取得することのないようその理解を得るよう努めることも重要である。

(ハ) なお、職業紹介業者の方々が、求職者のマイナンバーを取得する必要性は、現在のところ、原則認められないので、上述したように、みだりに求職者の方からそのマイナンバーを取得するようなことのないよう、厳に注意する必要がある。

2 関連法の改正

個人情報保護法の改正

上記マイナンバー法は、前述したように、前国会でマイナンバーの利用範囲を拡充する改正がなされたところであるが、この改正にあわせて、個人情報保護法の改正も行われたところである。

(1)今回の個人情報保護法の改正は、個人情報の保護を図りつつ、パーソナルデータの利活用を促進することによる、新産業・新サービスの創出と国民の安全・安心の向上の実現を図ることを目的に行われたものである。
 このため、個人情報の定義の明確化が図られることになっており、身体的特徴を記憶したカード情報(例、身体認証付キャッシュカード等)やサービス・商品購入用に割り当てられ又は個人に発行されるカード情報(例、個人番号カード番号・運転免許証番号等)が個人情報に含まれることを明確にするとともに、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実等本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要する記述等が含まれる個人情報を「要配慮個人情報」(いわゆる機微情報)として、新たに厳格な保護・管理の対象として定めている。例えば、要配慮個人情報は、本人の同意を得ないで取得することが、原則禁止される。
 また、個人情報取扱業者の範囲の限定(取り扱う個人情報が5000超)をなくし、すべての事業者を法の規制対象とするほか、個人情報保護委員会の新設(特定個人情報保護委員会を改組したもので、マイナンバーとともに個人情報全般についての事務を所掌)等の改正が行われ、改正法公布後、2年以内の政令で定める日から施行するとされている。

(2)今回の改正と職業紹介業者との関係であるが、職業紹介業者が業務を行う上で、特に問題となる、いわゆる機微情報の取扱いが、「要配慮個人情報」として厳格な取扱いが求められることとなっており、職業紹介業者としては、従来以上にその取扱いを厳格に行うことが必要となるとともに、その取り扱う個人情報の量にかかわりなく、個人情報保護法はすべての職業紹介業者に適用されることとなるので、あらかじめそのための準備を進めておくことが望まれる。

(3)なお、今回の改正を踏まえた職業紹介業者の具体的な業務取扱いについては、改正法施行までに、厚生労働省からその方針が示されると考えられるので、職業紹介業者としても、行政の動向にも注意を払う必要があると考える。

3 おわりに

職業紹介業者の方々は、マイナンバー法の遵守を求められており、それに適切に対応するためには、上述したように、多大の事務負担を負わなければならないが、法の趣旨をご理解の上、遺漏のないよう、その事務を進めることが必要とされているところである。

(注)特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)の概要
    (http://www.ppc.go.jp/files/pdf/261211guideline2.pdf)参照

「基本方針」と「取扱規程等」を策定し、事務取扱担当者を明確にする
   1 組織的安全管理措置
    ・組織体制の整備
    ・取扱規程等に基づく運用等
   2 人的安全管理措置
    ・事務取扱担当者の監督・教育
   3 物理的安全管理措置
    ・特定個人情報等を取り扱う区域の管理
    ・電子媒体等を持ち出す場合の漏洩の防止
    ・個人番号の消去、機器及び電子媒体等の廃棄等
   4 技術的安全管理措置
    ・アクセス制御
    ・アクセス者の識別・認証
    ・外部からの不正アクセス等の防止等

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マイナンバー導入チェックリスト

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マイナンバー制度、はじまります。

職業紹介をめぐる
法的な問題等について

■第1回
職業紹介の法的性格とその内容
について

■第2回
職業紹介、労働者派遣及び労働
者供給の相互関係

■第3回
職業紹介と消費者契約法等との
関係

■第4回
暴力団関係者からの求人・求職
申込みへの対応について

■第5回
職業紹介における個人情報保護
のあり方について

■第6回
紹介業者の善管注意義務について

■第7回
職業紹介における労働条件等の明示について

■第8回
紹介所と労働組合のかかわり

■第9回
手数料について

■第10回
ハローワークと求人者・求職者の職業紹介を巡る法的関係について

■第11回
事業譲渡、合併、会社分割等における紹介事業の許可等の取扱い

■第12回
固定残業代の記載がある求人票への対応について

■第13回
民法改正案の職業紹介業務への影響について

■第14回
最近の法改正を踏まえた適正な職業紹介業務の遂行について

■第15回
障害者雇用において職業紹介業者が留意すべき点について

■第16回
マイナンバー法施行に伴う職業紹介業者の留意すべき点について

■第17回
現在政府で検討されている職業紹介事業の見直しについて

■第18回
労働関係法令違反があった事業主からの新卒求人の取扱いについて

■第19回
地方分権を踏まえたハローワークの職業紹介等の改革について

■第20回
同一労働同一賃金と職業紹介上の留意点

■第21回
職業紹介事業に関する制度改正についての建議

■第22回
改正個人情報保護法の施行に向けて

■第23回
職業紹介事業に関する制度改正について

■第24回
働き方改革の概要について

■第25回
「職業紹介事業に関する制度改正について」と「改正個人情報保護法の施行に向けて」の改訂について

■第26回
民法改正の職業紹介業務への影響について

■第27回
紹介手数料不払い、求人者の倒産等への対応

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